《典雅の華・抱一の世界》
 抱一の作品にはどの本を見ても「典雅」「瀟洒」「品格」といった表現が頻繁に使われています。これらの言葉には光琳や宗達に代表される大胆で装飾的な琳派の典型的イメージとはやや異なる雰囲気が感じられますが、それは他の職業画家達とは大きく異なる上流社会出身の環境の中で育まれた教養や美意識、そして繊細な感受性が強く影響していたろう、という見解が研究者の間でも多いようです。格式高い譜代大名家に生まれ、趣味を共にする仲のよい兄(注・兄忠以は松平不昧公門下の茶人としても知られる)にも恵まれた若い頃の抱一は、次男坊の気楽さもあって心置きなく風雅に打ち込む日々を楽しみ移り変わる四季の美しい花鳥風月を愛したことでしょう。
 そんな背景を持つ抱一だからこそ、生涯の殆どを江戸で過ごしながらも、京都の公家社会に長年受け継がれた繊細優美な王朝文化に通じるものを持っていたのかもしれません。『琳派』といえば何よりもまず「装飾的」の一言で語られ、その傾向はとりわけ光琳に顕著ですが、抱一の世界では緻密な中にもそれを感じさせにくい嫋々とたおやかな優美さが勝っています。また弟子の鈴木其一は、初期には抱一の影響を色濃く受けて代作も手がけたほどの絵師ですが、独立してからの彼の鋭敏なセンスは師匠よりむしろ光琳のそれに近くさらに現代的な世界を展開しており、抱一の感性は琳派の中でも後にも先にも類を見ないものでした。
 そんな“典雅の華”とも謳われる抱一の作品の中から、特に有名なものや個人的に好きなものをいくつかご紹介します。

 ・「風神雷神図屏風
 ・「夏秋草図屏風
 ・「紅白梅図屏風
 ・「十二か月花鳥図

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